【Part3 生体内への酸素の取込み】 酸素博士岩垣コラム
生体内での酸素状態と酸素の取込みを酸素摂取といいますが、酸素の取込みは受動的に行われます。
濃度の高い所から濃度の低い所へ移動することで、空気中から生体内へ移ります。いわゆる受動的拡散といわれる現象です。
この特徴は、酸素が移動にエネルギーを必要としない事にあります。生きている限りこの働きは継続し、酸素が生体内に取り込まれるのです。したがって、空気中の酸素濃度が低くなれば命取りとなり、10%以下の酸素濃度では一呼吸で失神を引き起こします。生体内の酸素が空気中に移動してしまう為です。
高地では酸素濃度が低い為、限界の領域での登山はとんでもなくゆっくりでしか歩くことができません。これは筋力や筋持久力に依存する現象でなく、脳への酸素不足が大きな原因です。
運動に際しては、運動を引き起こすための機構の運動神経刺激は、電気的信号で筋を刺激する為、伝達と筋収縮は極めて速く起きます。Mitochondriaでの酸素を利用したATP(アデノシン3燐酸)生成は生化学的に行われるので、電気的刺激に比較すれば極めて遅く、さらに酸素輸送は受動的拡散の為、酸素不足が起きます。したがって、異化反応では酸素不足になりやすい状態となり、大きな力を出す際に酸素不足となっていますが、小さな力の場合では酸素不足が起きにくく、エネルギー産生をしながら運動が出来る状態にある為、長時間の運動が出来るのです。
高酸素吸入は生体内と高酸素との落差が大きく、酸素が受動的に生体内へ取り込まれ易くなり、高酸素は生体内負担を軽減します。
毎分300mの速度の15分間のトレッドミル走実験で、高酸素(60%)を利用した時の選手のパフォーマンスをPWC170(心拍数が170に達するまでの時間)で比較すると、高酸素の効果がはっきりみられます。
空気(20.9%)では2分で心拍数が170に達しますが、高酸素では2倍の4分に延長します。毎週1回ずつ行うとPWC170は徐々に延長し、4回目には4倍の8分まで延長していきます。血液内乳酸も空気中では7mM/Lですが、4回目には4mM/Lに減少していきます。このように高酸素の影響がはっきり出現されるのです。