【Part7 脂肪を分解する酸素】酸素博士岩垣コラム
酸素の役割は細胞内のMitochondria工場でのエネルギー産生(ATP)にあります。これはH.Wielandにより発見された現象です。この反応はこれまでの合成とは全く異なり、物質を分解して(異化)、ATPを産生することにあり、この制御は酸素が行っています。運動強化に比例して酸素摂取量が増加することが明らかになっています。
これらのエネルギー資源はブドウ糖、脂肪酸、アミノ酸ですが、アミノ酸の利用は仕事と関係が少なく、仕事量を高めても尿中窒素の増加が起きません。ほとんどがブドウ糖と脂肪酸の利用と考えられています。糖質としてのブドウ糖は分子量が小さく水に溶解するため、自由に体内を動く事が出来ます。ところが、脂肪酸は脂肪細胞TG(トリグリセリド)の分解がなければ利用する事が出来ません。細胞内への蓄積にも限界があり、脂肪が多くなれば細胞死を引き起こします。更に、その貯蔵にも特徴があり、脂肪細胞を形成し、脂肪組織として存在します。従って、脂肪を利用するためにはこの貯蔵庫から脂肪を分解して取り出す必要があります。脂肪の利用については、試験管内の研究でアドレナリン作用が有名ですが、脂肪分解に至る濃度はとても高く、生体内で発現する現象ではありません。そこで、歩行運動では歩行時間が長くなることで脂肪分解が高まるため、脂肪利用に最適とされています。歩行運動での内分泌も同時に策定されていますが、試験管内実験のような変化は生体内ではほとんど発現しません。ところが、高濃度酸素を吸収すると20分という短維持間でPlama FFAの増加が発現します。
Plasma FFAは脂肪細胞TGの分解産物のため、酸素を高めることで分解されます。これはラットの動物実験にて立証させています。ラットを1日4時間、週5日間の4週間、40%の高濃度酸素の環境で生活させます。高濃度酸素暴露でホルモン感受性リパーゼが活性化されることがわかります。その結果、Plasma FFAも2倍近くに増加します。従って、人間でみられたPlasma FFAの増加は脂肪細胞でのホルモン感受性リパーゼが活性化されることになるのです。
脂肪の利用は受動的に行われるので、脂肪分解に伴うPlasma FFAの増加は細胞内での脂肪利用を高める結果となります。
肝臓では細胞内のMitochondriaの分離が十分行えますが、他の組織ではMitochondriaを完全に分離する事が出来ません。肝臓の組織内では気体の酸素濃度を高めることでMitochondriaが増加し、送りこまれる脂肪酸を十分燃焼できる仕組みになっています。そして、他の組織ではMitochondriaに限定して存在するCardiolipinという物質が測定できます。高酸素暴露はそれぞれの組織でCardiolipinの増加が起きているため、高酸素環境ではあらゆる組織の細胞内Mitochondriaにも増加が起きているともいえます。従って、高酸素暴露は単に脂肪を分解する働きだけでなく、末梢の細胞内でのMitochondriaを増加させ、脂肪の利用が可能な仕組みを形成する働きとなっているのです。