【Part6 酸素の新たな役割】 酸素博士岩垣コラム
早石 修氏による酸素添加酵素(Oxygenase)の発見はこれまでの酸素の役割とは180度異なる意味を持っています。H.Wielandの酸素の役割は生体内での水素イオン(H⁺)除去であるのに対し、早石氏の発見した酸素の役割は酸素が添加されることで物質合成が行われているという事実です。ラボアジェの酸化と同じ現象が生体内に存在していることを示しています。
生体内でのこれまでの酸化は脱水素酵素、酸化酵素の働きで水素が移動することで起こり、主としてこの系はエネルギー産生で利用されます。ところが、酸素添加酵素の働きは空気中の酸素が細胞物質に添加され、酸素が移動することで物質が合成されます。この酸素添加酵素による様々な物質の合成は極めて広く、エネルギー資源の分解並びに合成、ステロイドホルモン、胆汁酸の合成、血色素の合成並びに分解、解毒作用、発がん物質の代謝などと極めて高領域の働きを持っています。
この他にコラーゲン合成(ヒドロキシプロリン、ヒドリキシリジン分子)、神経伝達物質合成(アセチルコリン、ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリン)にも酸素添加酵素の働きが見出され、酸素という気体が生命体の構造と機能に大きく関係しています。
①酸素添加によるprostaglandin(PG)の合成
細胞内のMicrosomeは細胞膜のアラキドン酸を利用して、酸素を添加することでPGの合成を行っています。全身の細胞での役割となり、極めて広範囲の作用となります。
免疫機能の立場ではPGが免疫機能を高めます。このことを裏付けるのは、運動と免疫との関係でOpenWindow説です。激しい運動は免疫機能を低下させ、窓が開き、感染を受けやすくしますが、中等度以下の運動であれば、免疫機能が高まるという説です。激しい運動では生体内で酸素不足が起きていますが、中等度以下の運動では酸素が充足し、酸素化が高められ、PGが高まるのです。
②酸素は血液中の一酸化窒素を高める
血管内皮細胞では血液中の酸素とアミノ酸であるアルギニンで一酸化窒素合成酵素(NOS)を合成し、血液中へ一酸化窒素(NO)を放出しています。NOは血管平滑筋を弛緩し、酸素供給を高める働きとなります。NOはニトログリセリンの終末産物で、一般的には即効性があることが知られています。実例として、高酸素吸入後の血液検査では即時に血圧低下が起こります。更にNOは視細胞から放出される活性酸素(O2⁻)と結合し、硝酸イオン(NO3⁻)を形成し、尿中へ排泄し、活性酸素除去にも貢献しています。
NOのこのような働きは全身の血管に及んでおり、極めて大切な働きです。生あくびなどで表現されますが、この背景には酸素を高め、NOを放出し、血管の弛緩を引き起こしている現象なのです。
③酸素はコラーゲンを合成する
コラーゲン分子はヒドロシプリン、ヒドロキシリジンで、これらの合成は酸素添加酵素が関係し、酸素とビタミンCが必須です。コラーゲン分子の集まりがコラーゲン線維となり、コラーゲンが存在するあらゆるところには酸素とビタミンCが必要となります。
特にスポーツ選手は大きな衝撃力に耐える力が必要ですが、衝撃を受ける部位の面積は極めて狭く、局所的に大きな力が加わる為に傷害が起こります。傷害のほとんどが骨と健の結合部に起こり、この修復には酸素と過剰なビタミンC(一回に2~4g)が必要なのです。
生体全体でのコラーゲンの所在は皮膚、血管、骨、腱、靭帯、軟骨、椎間板と全身に及んでいます。その為、生体内のコラーゲンの消滅は細胞の消失に繋がります。
④酸素はコレステロールを合成している
コレステロールはスクワレンから合成されています。合成の過程では酸素の存在が基盤となっていることがわかっています。
コレステロールは細胞膜にとって必須の物質で、細胞形成には不可欠な存在です。赤血球膜では構成脂質の30%がコレステロール成分で、骨格筋細胞、神経細胞の増殖には必須となります。
⑤酸素は神経伝達物質に必要
A.アセチルコリン
アセチルコリンは神経伝達物質で、神経細胞間や神経筋での情報伝達を行います。特徴は神経刺激に伴い、細胞内でアセルチンコリンが合成され、シナプス前膜から分泌され、このアセルチンコリンがシナプス後膜に到達することで情報伝達が終了します。アセチルコリンは再合成されますが、この時にアセルチル基は酢酸として代謝されるのに反し、コリンは再吸収されます。再合成時にアセルチン基不足となってしまう為、Mitochondriaがアセルチン基の供給源となっています。酸素を高めるとMitochondriaでの代謝活性が進むため、多くのアセルチン基を供給できることになり、酸素がアセルチンコリンの分泌を高めます。
B.ドーパミン、アドレナリン、ノルアドレナリン
ドーパミン、アドレナリン、ノルアドレナリンは脳神経細胞間の伝達物質です。チロシンからドーパミン、ドーパミンからアドレナリンやノルアドレナリンが合成されており、酸素はこれらの神経伝達物質合成に必要であり、酸素が神経伝達物質を高める結果となっています。
高酸素吸入後、光反応測定では反応時間が短縮し、クレぺリン検査では回答数が高まり、頭がすっきりするという自覚症状が起きます。